ある静かな田舎町に、70歳の彩花(あやか)とその息子・悠斗(ゆうと)が暮らしていました。彩花は数年前に脳卒中で倒れ、右半身に麻痺が残り、車いす生活を送っていました。悠斗は会社員として働きながら、母の介護を一手に引き受けていましたが、彩花をベッドから車いすに移す際、腰を痛めてしまうことが増えていました。
「悠斗、こんな体でごめんね」と彩花は口癖のように言う。悠斗は笑顔で「大丈夫だよ、母さん」と返すものの、心の中では「このままじゃ共倒れになる」と不安が募っていました。
ある日、町の介護相談窓口を訪れた悠斗は、ケアマネージャーの美咲に出会います。美咲は彩花の状況を丁寧に聞き、「移乗用リフトを試してみませんか?」と提案します。悠斗は最初、機械の導入に抵抗を感じました。「そんな大げさなもの、母さんが嫌がるかもしれない…」と。
美咲は微笑みながら、「彩花さんが自分で動きたい気持ちをサポートする道具ですよ。使ってみれば、きっと楽になるはず」と説得。悠斗は半信半疑で、リフトのデモを自宅で試すことにしました。
リフトは、ベッド脇に設置されたレールと、身体を優しく支えるスリングで構成されていました。彩花は最初、機械に吊り上げられることに戸惑いましたが、美咲が「まるで宇宙遊泳みたいでしょ?」と冗談を言うと、彩花も笑顔に。スリングに包まれ、ゆっくりと車いすに移る感覚は、意外にも心地よかったのです。
「これなら、私も少しは自分で動ける気がするね」と彩花が呟くと、悠斗の目には涙が浮かびました。リフトのおかげで、悠斗の腰の負担は劇的に減り、彩花も「息子に迷惑をかけてる」という罪悪感から解放され始めました。
リフトを使い始めて数週間後、彩花は新しい目標を立てます。「悠斗、庭の桜が咲く頃には、自分で外に出てみたい」。悠斗は驚きつつも、「じゃあ、リハビリ頑張ろう!」と励まします。彩花は理学療法士と協力し、リフトを使った移動を練習しながら、少しずつ筋力を取り戻していきました。
春が訪れ、桜が満開になった日。彩花はリフトで車いすに移り、悠斗に押されて庭へ出ました。桜の花びらがひらひらと舞う中、彩花は深呼吸をして言いました。「悠斗、ありがとう。この景色、ずっと見られると信じてたよ」。
悠斗は母の手を握り、「これからも、もっと色んな景色を見に行こうね」と答えた。移乗用リフトは、ただの道具ではなく、彩花と悠斗の新しい一歩を支える希望の架け橋となっていました。
0コメント